FIT制度とは?詳しく解説
FIT制度(固定価格買取制度)とは
FIT制度(固定価格買取制度)は、太陽光や風力などの再生可能エネルギーで発電した電力を、電力会社が一定の価格で一定期間買い取ることを国が保障する制度です。
この制度は、再エネ発電を行う事業者にとって重要な役割を果たしています。なぜなら、FIT制度によって発電した電気を必ず売電できるため、事業のリスクを抑えながら再生可能エネルギー発電事業を行うことができるからです。
FIT制度(固定価格買取制度)は、なぜ制定されたのか、そしてその制度が再エネ発電の普及率にどれだけの影響を与えたのかについて見ていきましょう。
FIT制度ができた背景
FIT制度(固定価格買取制度)が制定された最も大きな理由は、再生可能エネルギーを利用した発電を日本でも普及させる目的があります。
これまでの主要な発電方法は、火力発電や原子力発電が主流でしたが、これらは環境への悪影響や化石燃料への依存が問題とされてきました。特に火力発電は大量の二酸化炭素排出による地球温暖化の原因となるため、再生可能エネルギーの導入が求められました。
再エネ発電は環境への影響が少なく、地球温暖化対策やエネルギーの多様化に貢献する可能性があります。しかし、発電コストが高く、競争力に劣ることが課題でした。そこで、FIT制度が導入されました。FIT制度は再エネ発電事業者に対して一定期間、固定価格で電力を買い取る仕組みであり、再エネ発電の普及と技術革新を促進し、電力市場での競争力を向上させることを目指しています。
FIT制度によって再エネ発電事業者は発電した電力を確実に売却でき、リスクを低減できるため、再生可能エネルギーの導入が進みました。その結果、再エネ発電の普及率が増加し、環境への負荷を減らす取り組みが加速しました。FIT制度の導入によって、日本でも再生可能エネルギーの導入が進み、持続可能なエネルギー政策の推進が実現していると言えます。
制度導入後の再生可能エネルギー普及率の変化
資源エネルギー庁による公表データによれば、FIT制度(固定価格買取制度)が制定される前の2011年と、制定された後の2019年では再エネ発電の普及が大きく変化しています。
2011年当時は、再エネ発電の割合は全体の発電電力量に対してわずかであり、比較的低い水準でした。しかし、FIT制度が導入された後の2019年においては、再エネ発電の割合が急激に増加し、全体の発電電力量においてより大きなシェアを占めるようになりました。
FIT制度によって再エネ発電事業が促進され、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーの導入が進みました。これにより、再エネ発電の割合が飛躍的に増加し、持続可能なエネルギーの利用が進んだことがうかがえます。
再エネ発電の普及は、環境への負荷を軽減し、地球温暖化対策やエネルギーの多様化に寄与するとともに、エネルギー政策の転換を実現してきた重要な要因と言えるでしょう。FIT制度の導入によって再エネ発電の普及が進み、持続可能な社会の実現に向けた取り組みが加速したことが示されています。
下図 全体の発電量における再生可能エネルギーの割合
2011年 | 2019年 | |
---|---|---|
太陽光発電 | 0.4% | 6.7% |
風力発電 | 0.4% | 0.7% |
水力発電 | 7.8% | 7.8% |
地熱発電 | 0.2% | 0.3% |
バイオマス発電 | 0.5% | 2.5% |
データによれば、太陽光発電を主力とした再エネ発電の発電電力量が増加しており、再エネ発電全体の割合も10.4%から18.1%に上昇していることが確認されています。
FIT制度のしくみ
再エネ事業者、国民、電力会社、政府の関係
再エネ発電事業者、電力需要者(国民)、電力会社、政府の関係について、以下のように整理できます。
再エネ発電事業者は、再生可能エネルギーを活用して発電事業に従事し、再エネ発電設備を設置・運用しています。
発電された電力はFIT制度(固定価格買取制度)により、電力会社が一定の価格で買い取ることを約束しています。
電力需要者(国民)は、FIT制度を維持するために毎月の電気代に再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)を上乗せして電力会社に支払う必要があります。
そして、電力会社は収められた再エネ賦課金を活用して、再エネ発電事業者から発電された電力を買い取っています。
政府は再生可能エネルギーの種類や設備容量ごとに、FIT制度における買取価格を設定しています。
これらの価格設定は、電力会社と再エネ発電事業者との間での電力取引において重要な基準となっています。
再生可能エネルギー発電促進賦課金は国民が負担している
再エネ発電事業者・電力需要者(国民)・電力会社・政府の関係を考えると、固定価格買取制度(FIT制度)の維持には国民からの再エネ賦課金が一部で財源となっています。
言い換えれば、私たち一人一人が再エネ賦課金として追加の電気代を支払うことで、FIT制度(固定価格買取制度)が支えられ、再エネ発電の普及が推進されているのです。(参考までに、資源エネルギー庁の資料によれば、2021年度のFIT制度による買取費用総額は3.8兆円に対し、再エネ賦課金の総額は2.7兆円となっています。)
ただ、この再エネ賦課金の負担額が年々上昇していることが、現在の課題とされています。
例えば、FIT制度が2012年に導入された当初は、家庭用電気料金の内、再エネ賦課金による負担額は全体の1%ほどでした。
しかし、再エネ発電が進展するにつれて、再エネ賦課金の負担額は年々増加し、2020年時点では全体の12%まで上昇しているのです。
これには、再エネ発電の導入に伴い、電力需要者が支払う再エネ賦課金の割合が増えた影響が大きいと考えられます。
FIT制度の持続的な運営と再エネ発電の拡大を両立させるために、負担額の適正なバランスを保ちつつ、より持続可能なエネルギー社会を実現することが重要となるでしょう。
再生可能エネルギーそれぞれの売電価格の推移
太陽光発電
FIT制度(固定価格買取制度)では、太陽光発電の設備規模に応じて産業用と住宅用の2つに区分されており、それぞれに異なる売電価格が設定されています。
産業用太陽光発電は、企業が発電事業として行う場合や自社で消費する電力を賄うために設置されるものが該当します。例えば、大規模な太陽光パネルを設置するメガソーラーが産業用太陽光発電に分類されます。
一方、住宅用太陽光発電は、一軒家やマンションの屋根や屋上に設置された太陽光パネルによって行われる発電です。
2012年にFIT制度が導入された際の、1kWhあたりの売電価格は以下図の通りです。
太陽光発電の普及が進むにつれて、売電価格も減少しています。2023年時点における1kWhあたりの売電価格は、住宅用で16円と以前と比べて大幅に安くなっています。
2012年 | 2023年 | |
---|---|---|
住宅用 | 42円 | 16円 |
産業用 | 40円 | 9.5~10円 |
風力発電
風力発電も太陽光発電と同様に、設備の種類や規模によって売電価格が異なることがあります。
2012年の時点では、風力発電の売電価格は設備の規模に応じて分類されていましたが、2023年の時点では種類によって分類されるように変更されました。
具体的には、陸上風力発電、着床式洋上風力発電、浮体式洋上風力発電の3つのカテゴリに分けられます。
2012年から2024年までの間の風力発電における1kWhあたりの売電価格は、図1、図2のようになっています。
なお、2012年と直近のデータでは売電価格の分類区分が異なるため、直接的な比較は難しいですが、全体的に売電価格は減少している傾向が見られます。
図1 2012年の風力発電における1kwh当たりの売電価格
図2 2024年度の風力発電における1kwh当たりの売電価格
2012年 | 2022年 | 2024年 | |
---|---|---|---|
20kw以上 | 22円 | ー | ー |
20kw未満 | 55円 | ー | ー |
陸上風力発電 | ー | ー | 14円 |
着床式洋上風力発電 | ー | 29円 | |
浮体式洋上風力発電 | ー | ー | 36円 |
水力発電
水力発電には発電設備の規模によって、売電価格の分類が設けられています。
2012年時点での水力発電の売電価格は、以下の図のようになっていました。
水力発電は他の再生可能エネルギーと比較しても、1kWhあたりの売電価格はあまり変化していない傾向が見られます。ただし、2012年と直近のデータでは分類区分が異なるため、明確な比較は難しいことを留意してください。
このような事情から、水力発電はまだあまり普及していないと考えられており、今後さらなる導入が望まれる可能性が高いです。
2012年 | 2023年 | 2024年 | |
---|---|---|---|
1000kw以上30000kw未満 | 24円 | ー | ー |
5000kw以上30000kw未満 | ー | 16円 | ー |
1000kw以上5000kw未満 | ー | 27円 | ー |
200kw以上1000kw未満 | 29円 | ー | 29円 |
200kw未満 | 34円 | ー | 34円 |
売電価格低下の理由とFIT制度の問題点
売電価格が低下している理由
FIT制度(固定価格買取制度)の売電価格が減少する理由は、再エネ発電の普及に伴って、「再エネ発電の設備費用」と「運転維持費用」が低減していくためです。
例を挙げると、太陽光発電は太陽光パネルの設置だけで発電が可能なため、広く普及しやすい発電方式です。
この普及により、多くの人々が太陽光パネルを導入しようとすることで、太陽光パネルの生産量が増加し、1枚当たりの価格が低下しています。これにより、太陽光発電設備の設置費用が抑えられるようになります。
同時に、効率的な太陽光パネルの開発や耐久性の向上により、運転維持費用も減少しています。これらの要因が、売電価格の低下につながっています。
なお、FIT制度の売電価格は政府が設定しており、再エネ発電の設備費用や運転維持費用を考慮して決められています。これにより、事業者間の参入時期による不公平感を軽減することを目的としています。
これらの要因を踏まえて、FIT制度の問題点について検討していきましょう。
FIT制度の問題点
変わらない高い発電コスト
FIT制度(固定価格買取制度)の問題点として、依然として高い発電コストが指摘されています。
FIT制度の目的は再エネ発電の普及を促進し、設備費用や運転維持費用を削減して、他の発電方法よりもトータルの発電コストを安く抑えることです。
しかし、現状では再エネ発電にかかるトータルコストはまだ高いままであり、FIT制度に頼らざるを得ない側面があります。
世界の他の国の再エネ発電コストと比較すると、日本の再エネ発電コストは依然として高く、その低下スピードも緩やかであることが認識されています。
国民の負担増加
再エネ発電の設備は増加しているものの、発電コストは依然として高い状況です。そのため、FIT制度(固定価格買取制度)によって保障される売電料の総額は年々増加しています。
FIT制度を維持するためには、増え続ける総売電料に応じた資金を再エネ賦課金として国民から回収する必要があります。
このような状況では、国民の負担が増大することになります。
政府もこの問題を認識し、FIT制度自体の改定や新たな制度の導入を検討することが必要とされています。
FIP制度との違い
FIP制度とは
FIP(フィード・イン・プレミアム)制度は、再エネ発電事業者が生み出した電力を卸電力取引市場や相対取引で販売する際に、プレミアム(追加報酬)を上乗せして交付する制度であり、2022年度から日本で導入されました。
この制度の導入には、二つの主な背景があります。まず一つ目は、「再エネ賦課金の上昇による国民の負担を軽減すること」です。FIT制度(固定価格買取制度)では、再エネ発電事業者がいつでも一定の価格で電力を売却できるため、その負担が国民にかかりました。FIP制度では競争を導入することで、再エネ発電事業者がプレミアムを得るための競争力を持ち、国民の負担を減らすことを狙っています。
二つ目の背景は、「再エネを主力電源とすることを目指す」ことです。FIT制度では発電のタイミングに関わらず一定の価格で買い取ってもらえるため、需要と供給のバランスを考える必要がありませんでした。これでは再エネが主力電源として本格的に普及する際の課題が残ります。FIP制度の導入により競争を促進することで、電力市場の活性化を図り、再エネが主力電源として成長することを期待しています。
つまり、FIT制度は再エネを普及させることを目的とした制度であり、一方でFIP制度は競争を生み出し、電力市場の活性化を目指した制度と言えるでしょう。
FIT制度利用の上、太陽光発電を導入するメリット
再エネ普及率の上昇
再生可能エネルギーの普及については様々な意見が存在しますが、地球を持続可能な未来にするためには真剣に取り組む必要があります。特に再生可能エネルギーの普及を促進するためにはどのような手段を模索していくべきでしょうか。
先述した通り、FIT制度による売電価格の低下が確認されていますが、一方で中古の太陽光発電は利回りが高いとされ、十分な利益を得ることができると言われています。このメリットを活かして、企業や個人が太陽光発電投資に積極的に取り組む動きが広がれば、再生可能エネルギーの普及率向上に大きく寄与する可能性があります。
また、最近ではSDGs(持続可能な開発目標)が注目を集めています。SDGsはあらゆる課題に対して企業や個人が積極的に取り組むことを求めており、その中でも再生可能エネルギーの導入は重要な取り組みの一つとして位置づけられています。FIT制度を活用して太陽光発電を導入することは、SDGsの達成にも寄与する意義深い取り組みと言えるでしょう。
これらの要因を踏まえ、再生可能エネルギーの普及を推進するためには、より多くの企業や個人が太陽光発電投資に積極的に取り組むことを奨励し、SDGsの目標達成に向けても貢献する取り組みを推し進めていくことが重要です。
SDGsとの関連性
SDGsとは
SDGs(持続可能な開発目標)は、2030年までに達成すべき17のゴールと169の具体的なターゲットを持つ、世界的な取り組みです。この取り組みは、先進国を含む全ての国が共通して取り組むべき目標として位置づけられています。SDGsは、持続可能な社会の実現に向けて広範な分野にわたる重要な課題に対応しており、具体的な行動を示しています。
2015年の国連サミットで全ての国連加盟国によって採択されたSDGsは、現在も多くの国々で実践されており、目標達成に向けた取り組みが進められています。SDGsは持続可能な開発を促進するための包括的な枠組みであり、貧困削減、健康、教育、ジェンダー平等、クリーンエネルギー、気候変動、持続可能な都市など、多岐にわたる目標が掲げられています。
再生可能エネルギーの普及もSDGsの目標の一つとして位置づけられており、地球温暖化の抑制やエネルギーの持続可能な利用に貢献することが期待されています。各国がSDGsに基づいた政策や取り組みを実行し、持続可能な社会の実現に向けて協力していくことが重要とされています。
SDGs目標との関係
目標7 「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」との関係性
SDGsの目標の中で、FIT制度(固定価格買取制度)に関連する目標は「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」の目標7です。この目標は、全ての人々が安価で信頼性のある持続可能なエネルギーにアクセスできるようにすることを目指しています。
FIT制度によって再エネ発電が普及することで、この目標の達成に近づくことが期待されます。再エネ発電の普及により、より多くの人々が持続可能なエネルギーにアクセスできるようになり、エネルギーの利用がクリーンな方向にシフトしていくことが見込まれます。
さらに、FIT制度によって再エネ発電が拡大し、設備の設置や運用、メンテナンスなどのコスト削減が実現されることで、持続可能なエネルギーの普及が加速すると考えられます。技術の向上と経済的な効率化が進むことで、再エネ発電が開発途上国においてもより広く導入される可能性が高まるでしょう。
これにより、地球全体でエネルギーの持続可能な利用が推進され、気候変動やエネルギー格差の問題に対処する一助となると期待されています。FIT制度の普及促進を通じて、エネルギーのクリーン化と持続可能なエネルギーシステムの構築に寄与することが重要な課題となっています。
目標13 「気候変動に具体的な対策を」との関係性
次に関連する目標は、SDGsの目標13「気候変動に具体的な対策を」です。この目標は、気候変動とその影響を軽減するために具体的な対策を実施することを目指しています。
現代社会において電力は不可欠な存在ですが、主流となっている火力発電は二酸化炭素を排出し、地球温暖化に対する影響が懸念されています。このような状況に対処するためには、再生可能エネルギーの活用が重要です。
FIT制度によって再エネ発電を支援することで、将来的には電力需要の大部分を再エネルギーで賄えるようになるでしょう。再エネ電力の拡大により、火力発電による二酸化炭素排出量が減少し、地球温暖化への対策が進むと期待されます。
このように再エネ発電の普及によって、地球温暖化を抑制しながら持続的な電力供給が実現できると言えます。SDGsの目標13の達成に向けて、FIT制度を活用した再エネルギー政策の推進が重要な役割を果たすことが期待されています。
まとめ
FIT制度(固定価格買取制度)は再生可能エネルギーによって発電された電気を、一定の価格で電力会社が買い取ることを政府が約束する制度です。
この制度により、再エネ発電事業者は安定した売電収入を確保できるため、投資リスクを抑えることができます。また、電力会社が再生可能エネルギーを優先的に買い取ることで、再エネ発電の普及を促進し、持続可能な社会の実現を目指しています。
しかし、FIT制度には依然として高い発電コストや国民負担の増加といった課題も存在しています。
今後も再エネ発電をさらに普及させるためには、FIP制度のような新たな制度の導入や、既存制度の見直しが必要となるでしょう。
持続可能な社会を築くためには、再生可能エネルギーの普及とその経済的な側面を考慮した効果的な政策の推進が重要です。これにより、再エネ発電がより広く導入され、地球温暖化防止やエネルギー安全保障に貢献できると期待されています。
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